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(いつものぺそ)

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怪奇!他の人から見たらもはや別人なので何に怯えているのかわからないが、本人からすると五次創作ぐらいにあたるので堂々とお出しすることができずこそこそと練っては一人で萌えているやつ(恐怖)
くろーどくんのつくってくれた設定まとめページ、美しかったので置いておきます
https://claude.ai/public/artifacts/dea397f3-009d-4f44-b9ff-d83a7bb067ed
めちゃくちゃ豪華にしてくれ!と頼んだら図形で立ち絵を再現しようとしてくれて面白かったほう
https://claude.ai/public/artifacts/d550bcdd-abbc-4ba3-b47c-320ea46c32a1

メモ(AI生成)

 一 


満月の前夜は、いつもどこか空気が違う。

グレンにはわかる。骨の奥から熱が這い上がってくるような、皮膚の裏側が焦れったくなるような——あの感覚が、今夜もじわりとはじまっていた。


《アーク》の外殻回廊、区画D-7。照明が夜間モードに切り替わり、天井の蛍光パネルが三割の光量まで絞られた通路を、グレンは一人で歩いていた。巡回ではない。ただ、眠れなかった。

壁の向こうは宇宙だ。分厚い隔壁の素材越しに、何億光年もの虚空が広がっている。それを知っていながら人は艦の中で眠り、食い、笑う。グレンもそのひとりのはずだった。


足が止まる。


回廊の突き当たり、展望窓の前に誰かがいた。

発光していた。


淡い黄白色の光が、窓際に浮かぶように佇んでいる。クラゲの触手に似た髪が、艦内の循環気流にゆっくりとなびいていた。白衣の背中。丸眼鏡のつるが光を照り返している。


シアラだった。


「……こんな時間に何をしている」
声をかけると、彼は振り返らずに答えた。

「観察」
「何を」
「宇宙を」

間があって、シアラは少しだけ肩を動かした。振り返るというより、首だけをこちらに傾ける。眼鏡の奥の青白い瞳が、グレンを映した。


「グレンこそ。巡回は終わったでしょ」
「……眠れなかった」
「珍しい」
「そうでもない」

嘘だった。グレンはほとんど常に規則正しく眠る。体がそう訓練されている。ただ今夜だけは、横になっても意識が冴えつづけて、熱が収まらなかった。明日の月の位置を、体が先に知っていた。


シアラは窓の外に視線を戻した。その横顔に、展望窓から降り注ぐ星の光が落ちている。発光する肌がそれを吸い込んで、また別の柔らかさで返していた。


グレンは近づかなかった。

三メートルほどの距離を保って、壁に背を預けた。


「……満潮か」
「新月は来週だよ」とシアラは答えた。「でも、少し前から共鳴が強くなってきてる」
「何を感じている」
「いろいろ」
「具体的に言え」

シアラがわずかに笑った気配がした。光が、ほんの少し強くなった。


「うるさいひとの感情とか、眠れないひとの体温とか」
「……」
「ぼくの近くに、そういうひとがいるから」

グレンは何も言わなかった。言えなかった、という方が正確だ。

――――◆――――

 二 


シアラが初めて物質的な肉体を持ったのは、三年前のことだ。


生体再構築ラボ——艦隊の中でも最も厳密に管理された施設——で、シアラは自らを実験体として申し出た。非物質生命体であるルミニアンに、有機的な身体構造を与える試みは、それまで誰も成功したことがなかった。

グレンはその実験を、保安主任として立ち会った。


記録映像で見た光景は今でも覚えている。光の塊が、少しずつ輪郭を持ちはじめる過程。波のように揺れていたものが、だんだんと固まり、指のかたちになり、膝のかたちになり、眼鏡をかけた若者のかたちになっていく。


最初に声を出したとき、シアラは「寒い」と言った。


体温というものを生まれて初めて感じた存在が、最初に言った言葉が「寒い」だった。


グレンはそのとき、何も考えずに上着を脱いで渡した。


「……なんで」とシアラは言った。声が、かすれていた。
「寒いんだろう」
「……うん」

それだけだった。それだけのことだったのに、グレンはあの瞬間から、この光の生き物を目で追うようになった。

理由は今でもわからない。ただ、「触れられるようになった存在」を、誰かに傷つけられたくなかった。それだけだと思っていた。


今もそう思っている。

それだけだと、思っている。

――――◆――――

 三 


「グレン」

シアラが窓から離れた。足音がない。ルミニアンは、どれだけ肉体を得ても歩き方が水中の生き物に似ている。着地の衝撃を、体全体で吸い込むように動く。

グレンの前に来て、少し見上げた。


「明日、満月でしょ」
「ああ」
「症状、出る?」
「……多少は」
「多少って、どのくらい」
「おまえには関係ない」
「関係ある」

言い切った。シアラは、言い切るときには迷わない。グレンはそれを知っている。


「……なぜ」
「ぼくが心配してるから」

グレンは壁から背中を離して、シアラを見下ろした。体格差がある。シアラは細く、白く、光っている。グレンはその対極にあるような体をしている。こうして並ぶと、よく釣り合わないと自分でも思う。


「心配するな。制御できる」
「それ、毎回言うよね」
「毎回制御してるだろう」
「してる」とシアラは認めた。「でも、顔が違う。満月の前後って、グレンの目の色が変わるの、知ってる?」
「……知ってる」
「琥珀から、金になる」
「だから何だ」
「綺麗だなって思う」

静寂。


艦内の空調が、低いハム音を立てていた。どこか遠くで、機械が動く振動が床を伝ってくる。宇宙は窓の外で、ずっと黙っている。


グレンは何も言えなかった。

シアラが「綺麗」と言う対象は、たいていが実験データか、星雲の写真か、未知の現象だ。それが自分の目の色だというのは、どう処理すればいいのかわからなかった。


「……変なことを言うな」
「変じゃない。本当のことだよ」
「寝ろ」
「眠れないって言ったのはグレンでしょ」
「おまえの話をしている」
「ぼくも眠れないよ」とシアラは言った。少し声のトーンが変わった。「新月が近いと、潮共鳴が強くなって、近くにいるひとの感情が全部流れ込んでくる。遮断できなくて……少し、しんどい」

グレンは黙って聞いた。


「グレンの感情、特によく届くんだよね」
「……なぜ」
「わからない。でも、ぼくの光がグレンに反応するから、たぶん……なんか、共鳴しやすいんだと思う」
「おれの感情が」とグレンは慎重に言葉を選んだ。「おまえにとって、邪魔になっているか」

シアラは少し考えた。


「邪魔じゃない」
「なら」
「むしろ」

と、シアラは言いかけて、止まった。光がわずかに強くなった。感情が高まると、体表の発光細胞が反応する——グレンはそれをシアラから教わった。今の光の強さは、なんという感情に対応しているのだろう。


「むしろ?」
「……落ち着く」

グレンは、息を止めた。


「グレンの感情が流れ込んでくると、落ち着く。なんかこう、根っこがある感じがして」

シアラは言葉を探しながら続けた。


「ぼく、もともと物質がなかったから、『重さ』みたいなものが苦手で。肉体を得てからも、自分がちゃんとここにいるのかよくわからなくなるときがある。でも、グレンの……熱とか、重さとか、そういうのが来ると、なんか、いる気がする。ここに」

グレンはしばらく、何も言わなかった。

言葉は持っていなかった。代わりに、ゆっくりと手を動かした。


シアラの頭のてっぺんに、手のひらを乗せた。

触れるか触れないかの、ぎりぎりの重さで。


「…………」

シアラが固まった。発光が、一瞬強くなって、それからゆっくりと落ち着いた。波が引くように。


「……なに、これ」
「おれがここにいる」

グレンは言った。自分でも驚いた。そんな言葉が出てくるとは思っていなかった。


「それでいいか」

シアラは答えなかった。

しばらく経って、こつん、と——グレンの掌に、重さがかかった。シアラが少し、頭を預けてきた。

光が、静かに揺れた。

――――◆――――

 四 


どのくらいそうしていたのかわからない。


シアラは眼鏡を外して、くしゃっとした顔でグレンを見上げた。普段の飄々とした表情とは違う、何かが剥けたような顔だった。


「……ぼくさ」
「ん」
「グレンの三つ編み、触ってみたいと思ってる」

グレンの手が、空中で止まった。


「……何を言っている」
「だって気になるんだもん。金具、いつもきらきらしてて」
「触るな」
「なんで」
「……そういうものだ」とグレンは言った。声が少し、かすれた。「狼族の慣習だ。意味がある」
「どんな意味?」
「知らなくていい」
「知りたい」
「知らなくていい」

シアラは少しの間、グレンの左もみあげに視線を落としていた。赤と白が混ざった短い三つ編み。金具がひとつ。それが何を意味するのか——グレンは教えるつもりはなかった。少なくとも今夜は。


「……いつか、教えてくれる?」
「考える」
「それ、たぶん教えてくれないやつ」
「考える、と言った」

シアラはふっと笑って、また窓の外を見た。発光が、穏やかになっていた。潮共鳴が落ち着いてきたのかもしれない。それとも別の理由かもしれない。


「ぼく、ここに来てよかったと思ってる」
「艦隊に?」
「グレンのところに」

また、静寂。


グレンはシアラの頭から手を離した。代わりに、壁に背中を預けながら、並んで窓の外を見た。肩が触れそうな距離で。触れなかったが。

宇宙は変わらずそこにあった。数え切れない星が、無音で燃えていた。


「……おれも、だ」

グレンは小さく言った。

シアラが顔を上げた。


「え?」
「聞こえなかったか」
「聞こえた。もう一回言って欲しかっただけ」
「聞こえたなら十分だ」
「ケチ」
「眠れ、もう」
「グレンも眠れるの?」

グレンは少し考えた。骨の奥の熱は、まだあった。ただ、さっきより少し——穏やかになっていた気がした。


「……多少は」
「じゃあよかった」

シアラは白衣の袖を少し引いて、眼鏡をかけ直した。それから歩き出して、三歩ほど行ってから振り返った。


「おやすみ、グレン」
「ああ」
「あのさ」
「何だ」

シアラは少しだけ笑って——光が、夜の回廊に柔らかく散った。


「明日の夜、目の色が変わったら、見せてね。綺麗だから」

返事をする前に、シアラは角を曲がって消えていた。

光の残滓だけが、しばらく廊下に漂っていた。


グレンは一人、展望窓の前に残って、宇宙を見た。

宇宙は何も言わなかった。

ただグレンの胸の奥で、名前のつけられない何かが、静かに熱を持っていた。


明日は満月だった。

――――◆――――

エピローグ


翌朝、研究局の廊下でシアラとすれ違ったとき、グレンは何も言わなかった。

シアラも何も言わなかった。

ただ、すれ違いざまに、シアラの指先がグレンの手の甲をかすめた。


触れるか触れないかの、ぎりぎりの重さで。


グレンは止まらなかった。振り返らなかった。

ただ、左手の感覚が、その日一日、消えなかった。



── 光が、触れる夜に ──

↓続き




その日の昼間、グレンは仕事に支障をきたした。

正確に言えば、支障が出る手前で踏みとどまった——が、部下のヴァルカが「隊長、顔色が悪いですが」と三回言ってきた時点で、グレンは自覚した。隠せていない。


満月当日の体は、まるで別の生き物のように振る舞う。

聴覚が鋭くなる。隔壁の向こうで誰かが話す声が、内容まで聞こえてしまう。嗅覚も同様で、艦内の空気循環が運んでくる他者の体温や感情の残滓が、いちいち意味を帯びて届いてくる。瞳は——鏡を見るまでもなく——金色に変わっているはずだ。それを悟られないよう、今日は朝から目線を低く保っていた。


もっとも厄介なのは、感情の制御が難しくなることだ。

いつもは遠くに置いておけるものが、満月の夜は手元まで近づいてくる。たとえば——昨夜、シアラが「グレンのところに来てよかった」と言ったこと。たとえば——頭を預けてきたときの、あの重さのこと。

そういうものを、今日のグレンは遠ざけておけなかった。


執務を切り上げたのは、日が落ちてすぐだった。

部下には「体調不良」と告げた。嘘ではない。

――――◆――――




私室に戻ったグレンは、鎧を脱いで、シャツ一枚になった。

それだけで、少し楽になる。満月の夜は皮膚が過敏になるため、厚い装備は拷問に近い。艦隊の狼族の間では「満月の夜は薄着で寝ろ」という冗談混じりの慣習があるが、グレンに言わせれば冗談でも何でもなかった。


洗面台の前に立って、鏡を見た。

金色だった。

自分の目が、琥珀から完全に変わっている。光を反射する、獣の目。グレンはそれが嫌いだった。理由は単純で、隠せないからだ。感情が、体に出る。それが満月の夜というものだった。


ノックが、した。


三回。間隔が等しい。

グレンは鏡から目を離した。


「……誰だ」
「ぼく」

シアラだった。

グレンは数秒、動かなかった。今夜に限って来るな、と思った。今夜に限って来るな、と——しかし足は扉に向かっていた。


開けると、シアラは白衣のまま立っていた。片手に何か小さな容器を持っている。体が、淡く発光していた。

そしてグレンの目を見て、少し息を止めた。


「……金色だ」
「見るな」
「なんで」
「気が散る」
「誰が」
「おれが」

シアラはじっと、グレンの目を見ていた。品定めするような視線ではない。ただ、見ていた。昨夜「綺麗だから見せてね」と言った目で、そのまま見ていた。

グレンは耐えられなくて、視線を逸らした。


「何の用だ」
「持ってきた」

シアラが容器を差し出した。透明なガラスのような素材に、液体が入っている。青白く、かすかに光っていた。


「なんだこれ」
「潮冷却液。ルミニアンが満潮期に使う、体温調節剤。グレンの満月症にも効くかもしれないと思って、調合してみた」
「……勝手なことを」
「いい意味でね。熱、すごいから」

グレンは眉を寄せた。


「熱がわかるのか」
「潮共鳴で。グレンの体温、今日ずっと高かった。研究室にいても届いてたよ」
「……迷惑をかけた」
「迷惑じゃないって言ったでしょ。昨夜も」

グレンは返せなかった。

シアラが「入っていい?」と言わずに、すでに一歩踏み込んでいた。グレンは退かなかった。退けなかった、のほうが正確だ。

――――◆――――




私室は広くない。

ベッドと机と、小さな窓。グレンの部屋には余分なものがほとんどない。そこにシアラが入ってくると、光のせいで部屋全体が少し明るくなる。グレンはそれが——不思議と、嫌ではなかった。


シアラは容器をテーブルに置いて、グレンを見た。


「座って。額に塗るから」
「自分でやる」
「届かないでしょ、正確に」
「届く」
「ルミニアンの調合液は、塗り方にコツがある。素人には難しい」
「……おれは素人ではない」
「これに関しては素人でしょ」

グレンは黙った。

負けた、と思った。議論として、という意味で。


ベッドの端に座ると、シアラが向かいに立った。身長差があるため、グレンが座るとほぼ目線が合う。シアラは液体を指先に少し取って、それをグレンの額に、静かに押し当てた。


冷たかった。

正確には、冷たいのではなく——温光、とでも言うような感覚だった。シアラの指先から伝わってくるものは、体温ではなく光のような何かで、それがじわりと皮膚の内側に沁みていく。


グレンは息を詰めた。


「……痛い?」
「痛くない」
「熱は?」
「……少し、引いてきた気がする」
「よかった」

シアラは丁寧に塗り続けた。こめかみ、頬骨のあたり、首筋の少し上。指先の動きが、水中を泳ぐものの動きに似ていた。無駄がなく、静かで、迷いがない。

グレンはじっとしていた。じっとしていることしかできなかった。

なぜかと言えば——シアラの顔が、近かった。

集中している顔だった。眼鏡が少し傾いて、唇が小さく動いている。何か確認しているのかもしれない。発光する肌が、グレンの顔のすぐ近くで揺れていた。


金色の目で見ていた。

満月の夜の本能が、静かに言っていた——手を伸ばせ、と。

グレンは、動かなかった。

――――◆――――




シアラが手を引こうとしたとき、グレンは口を開いた。

考えて言ったわけではなかった。


「……昨夜の話」
「うん」
「三つ編みのこと」

シアラが動きを止めた。グレンの目が、少し揺れた。


「狼族は」とグレンは言った。「三つ編みを、伴侶が整える」
「……うん」
「最初は母が結う。次に触れるのは——一生を共にする相手だけだ」

シアラは黙って聞いていた。

発光が、わずかに変化した。グレンにはもう、その変化がどんな感情に対応しているか、少しずつわかってきていた。今のは——緊張だ。


「だから、触るなと言った」
「……うん」
「触れさせるということは」

グレンは一度、言葉を止めた。

窓の外を見た。満月が、そこにあった。丸く、白く、静かに光っている。宇宙の中で、あんなに遠くにあるのに、こんなに体に響く。


「意思表示だ。おれにとっては」

シアラが、小さく息を吸った。


「……それって」
「聞くな」
「聞く」
「今夜は満月だ。おれの言葉を真に受けるな」
「満月だから言えたんでしょ」

グレンは答えなかった。

否定もしなかった。


シアラがゆっくりと、手を伸ばした。グレンの左もみあげ——三つ編みの、すぐ隣に。触れない。触れない距離で、止まっていた。


「触っていい?」

静寂。

艦の機械音。満月の光。シアラの発光。

グレンの、止まった呼吸。


グレンは目を閉じた。

それは、答えだった。


シアラの指先が、三つ編みに触れた。

金具をそっとなぞって、それから編んだ髪の一本一本を、確かめるように。

触れるか触れないかの重さではなかった。ちゃんと、触れていた。


グレンは動かなかった。

金色の目の裏で、何かが静かに、解けていくような気がした。


「……綺麗」

シアラが小さく言った。三つ編みを見ながら言ったのか、グレンを見ながら言ったのか、目を閉じていたグレンにはわからなかった。


わからなくて、よかった、と思った。

わかってしまったら、もっと、動けなくなる。

――――◆――――




どのくらい時間が経ったのかわからない。


シアラが手を引いたとき、グレンはそっと目を開けた。

シアラの顔が、近かった。眼鏡の奥の青白い瞳が、まっすぐグレンを見ていた。発光が、さっきよりずっと強くなっていた。


「ねえ、グレン」
「……何だ」
「ぼく、真名を知りたい」

グレンの体が、微かに固まった。


ルミニアンの文化における真名——それはただの名前ではない。シアラから聞いたことがある。満潮の夜、信頼する相手の真名を呼び合う儀式。声ではなく心で伝える。真名を知られることは、全存在を委ねることに等しい。


「……おれたちの文化には、そういう慣習はない」
「知ってる。でも、ぼくにはある。だから、ぼくからグレンに教えたい」

グレングレンは顔を上げた。シアラの目が、揺れていた。揺れているが、逸らさなかった。


「……なぜ」
「グレンのところに来てよかったって、昨夜言ったでしょ」シアラは言った。「あれ、もう少し正確に言うと——グレンのそばにいると、ぼくは、ここにいる気がする。自分が、ちゃんとある気がする。ルミニアンって、もともと形がないから、実はずっと不安なんだ。肉体を得てからも。でもグレンがいると、その不安が消える」

グレンは黙って聞いた。


「それって、たぶん——ぼくにとって、グレンが特別だってことだと思う」

シアラが言い切った。

光が、全身に広がった。強く、柔らかく、ゆらゆらと。

グレンはしばらく動けなかった。満月の夜の本能が、また言っていた——手を伸ばせ、と。今度は——理性も、同じことを言っていた。


グレンは、シアラの頭に手を置いた。昨夜と同じように。ただ今夜は、もう少し、重さをかけた。


「……シアラ」
「うん」
「おれには、狼族の真名の慣習はない」
「うん」
「だが」

グレンは少し、俯いた。シアラと目線が合う角度で。


「おまえが、おれの隣にいると」

言葉を、探した。

グレンはもともと、言葉を持っていない人間だ。感情を言語にするのが、苦手だ。だから今まで、ずっと黙っていた。黙って背中で語るしか、知らなかった。

でも今夜は満月で、シアラが目の前にいて、光が揺れていた。


「……落ち着く」

シアラが、息を止めた。


「昨夜、おまえが言っていた言葉を、そのまま返している」
「……知ってる」
「だが、本当のことだ」

シアラが、何かを言おうとして——止まった。発光が、波のように全身を走った。それからゆっくりと、グレンの手のひらに、額を押し当ててきた。

昨夜よりも、はっきりと。


グレンは動かなかった。

金色の目で、満月を見た。

宇宙は変わらず静かで、艦は変わらず進み続けていた。

ただグレンの掌の中に、光が揺れていた。

その光には、重さがあった。

――――◆――――

エピローグ


その夜、シアラはグレンの私室に長くいた。

正確な時間は、どちらも確認しなかった。


帰り際、シアラはドアの前で振り返って、小さな声で言った。


「ぼくの真名、今度教える。満潮の夜に」

グレンは「ああ」とだけ言った。

シアラが消えてから、グレンは洗面台の前に戻った。鏡を見た。

目は、まだ金色だった。

満月はまだ夜空にあった。


グレンは、左手の指先を、自分の三つ編みに触れさせた。シアラが触れた場所に。

温光の感覚が、まだ残っていた。


——いつか、と思った。

いつか、おれもちゃんと言葉にする。

満月じゃない夜に。理性が言語を選べる夜に。

それまでの間は——この掌の熱が、代わりに語っていればいい。




── 金色の夜、触れる前に ──

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