139 創作 2025年12月18日 かわいいんすよ、うちの吸血鬼トリオ、かわいいんすよ…(泣) メモ(AI生成)⸻◤三馬鹿(吸血鬼) 前日譚第一章 サーシャ:土の下の目覚め◢ 夜の匂いを、彼女は最初に思い出した。 冷たく、湿り、風が通らぬ――そのはずなのに、鼻腔の奥をひどく刺激するほど濃密な、黒い土の香り。 次に、胸を圧迫する“重さ”を感じた。 息を吸おうとしても、吸えない。まるで世界そのものが胸に座り込んでいるかのようで、身体は自分のものではないように動かなかった。 暗闇。 ひたすらに深く、わずかな光も差さない。 そのはずの闇が―― “揺れた”。 サーシャはその瞬間、自分がまぶたを閉じていたらしいと気づいた。 ゆっくりと瞼を押し上げる。 だが視界に広がったのは、闇の続きではなく、圧倒的な“黒い壁”であった。 土だった。 自分の顔すれすれを覆う、硬く詰まった黒土。 ――ああ、埋められている。 その感覚は、恐怖よりも先に、ただ事実として脳裏に落ちた。 心臓が鼓動し始め、肺がようやく空気を求めた時、土が胸にぶつかって跳ね返ってきた。息をする空間などない。 そのとき、彼女の指先がかすかに動いた。 地上へ向けて、掌が自然と持ち上がる。 腐葉土の重みが手首にのしかかったが、サーシャは力の入れ方さえ忘れていた体を、ゆっくりと押し広げるように動かした。 爪が、土をかいた。 そのたった一度の動きで、胸の奥でなにかが“目を覚ました”。 力があった。 生前、決して持っていなかったはずの強さが、腕を、指先を、背筋を満たしていく。 思考より先に、身体が地上を求めた。 土の中を、手が掻き分ける。 腕が伸びる。 喉の奥で、言葉にならない空気が漏れた。 ――生きなければ。 数度の掻き動作ののち、頭上からひんやりとした風が流れ込んだ。 月明かりが、わずかな銀色を差し込む。 サーシャは地表へと顔を出し、冷たい夜気を思いきり吸い込んだ。 肺が痛む。けれど、その痛みさえ懐かしかった。 胸の奥の“空腹”が、はじめて呻く。 彼女は両手で土を押し分け、上半身を地上に出す。 夜露に濡れた森の匂いが、乾き切った喉を刺した。 しばらくしてようやく、サーシャは呟いた。「……ここ、は……?」 墓標は朽ちていた。 かつて自分の名が刻まれていたであろう石板は、苔とひびで原型を留めていない。 周囲の墓も同じだった。誰も訪れた気配がない。 まして近くに灯りも声も、村の気配すらなかった。 彼女は、そこで初めて気づいた。 ――時間が、流れすぎている。 足元の土の新しさ、周囲の地形の変化。 自分が眠ったはずの年数をはるかに超えた“季節の積み重なり”が、森を変えていた。 ゆらりと立ち上がると、着ている布は朽ち、半ば土に還りかけていた。 村へ戻ろうと歩き始めたが、その村はもう影すら残していなかった。 焼け跡。 炭化した木柱。 草に埋もれた井戸。 家々の区画は影を失い、ただ地面に沈んだ線だけが、そこに暮らしがあったことを示していた。 静寂のなかで、夜風がひときわ冷たく頬をなでていく。 村が滅んだ理由はわからない。疫病なのか、戦なのか、炎なのか。 けれどどちらにせよ――もう誰もいない。 サーシャは村の跡を歩く。 一歩ごとに、空腹が胸の奥で小さく呻く。 生命の気配を求めるように。 しかし、涙は出なかった。 記憶は遠く、意識はまだ“生”の実感を結べていなかった。 やがて彼女は、村の外れに残る一本の大木の前に立つ。 生前、子供のころよく木陰で祈りを捧げた場所だ。 その根元に座り込み、ぽつりと呟いた。「……私は……どうすれば……?」 返事はない。 けれど、森の奥からかすかな光が見えたような気がした。 その光の向こうに、古びた豪邸があるなど、サーシャはまだ知らない。 そこで暮らす、気品ある吸血鬼の青年が、孤独に蝋燭を灯しているなど――想像することすらできない。 空腹は、ゆっくりと彼女を森へと誘った。 運命を、三人の始まりへと。⸻◤三馬鹿(吸血鬼) 前日譚第二章 ナルシス:夜明けを嫌う者◢ 吸血鬼の館に夜が降りるとき、世界はひとつ深い息を吐く。 森の奥―― 人の道が途切れ、獣道すら消えるほどの深部に、その洋館は佇んでいた。 大きな翼を広げたような外観は、月光を受けて銀色に沈む。 しかしその美しさとは裏腹に、敷地の手入れはほとんどされていない。 絡みつく蔦は好き放題に伸び、庭の噴水はとうの昔に水を失い、ただ苔で緑色に曇っていた。 そんな豪邸の奥――唯一、人の痕跡が保たれる部屋がある。 真紅の天蓋。 磨き込まれた黒檀の棺。 ナルシスは、そこでゆっくりと目を覚ました。 まるで長い夢から醒めるように、まず細く息を吐き、次にしなやかな指で棺の蓋を押し上げる。「……ふあ……っ。今日も吾輩は完璧だな」 寝起きの声ですら、どこか誇らしげだった。 棺の蓋を跳ね上げるように押し開け、ナルシスは優雅に上体を起こす。 その白い肌には一切の陰りがなく、金の瞳は夜の中でも宝石のように輝いていた。 しかし、部屋を一歩出れば、華麗さは急激に現実へ引き戻される。 誰も住んでいない長い廊下は薄暗く、古い肖像画の額縁には埃が積もっていた。 ナルシス自身、掃除に興味などないのだから当然である。「……侍女でもいれば完璧なのだが。生憎、吾輩ほどの存在に仕えるに相応しい者が見つからんのだよな」 つぶやきながら歩く靴音が、広い館に虚しく響く。 そのこだまの寂しさに、ナルシスが気づくことはなかった。 館の最奥に、一枚の大きな肖像画がある。 布が丁寧にかけられ、決して埃ひとつ触れないよう大切に覆われている。 館にある唯一の“手入れの行き届いた物”だった。 ナルシスはその前で足を止める。 触れはしない。ただ、布越しに静かに見上げた。「……今日も変わらず、美しい」 声はいつもの傲慢さとは違い、どこか遠い響きを帯びていた。 肖像画に描かれているのは、人間の女性。 まだ誰も知らないが、ナルシスがただ一度だけ心から愛した相手である。 愛されたことは、ない。 吸血鬼に寄り添えるほどの強さを彼女は持っていなかったし、ナルシスもまた上手く愛せなかった。 けれど――忘れられなかった。 その想いだけが、この豪邸に灯る最後の“火”となっていた。「……ふん。吾輩に相応しいのは、この世にただ一人。 あの夜……選ばれなかったのは、彼女の弱さのせいだ。吾輩の責ではない」 言い聞かせるような独り言は、頬をかすめる冷たい風にさらわれていく。 豪邸の窓は隙間風を防ぐ力をとうに失っていた。 ナルシスは視線を逸らし、代わりに広い廊下へ歩み出る。 部屋を出ると、いつもの堂々とした笑みが戻る。「さて。血を求めて森を巡るか。庶民どもは今日も美味であるとよいが」 優雅に扉を押し開け、外へ出た。 そのときだった。 とても、遠く。 けれど確かに―― “何かが生まれる気配”が、森の奥で揺らいだ。 土を割り、夜の底から立ち上がるような、奇妙に湿った気配。 吸血鬼であるナルシスは、それを敏感に感じ取る。「……ほう? 今夜は妙に愉快な匂いがするな」 唇が弧を描いた。 その気配が、数日後に“あのちびっこい小娘”と出会うきっかけになるとは、当然知らない。 あの日、すべては静かに動き始めていた。⸻◤三馬鹿(吸血鬼) 前日譚第三章 一狼:月の下で息を潜める者◢ 森の奥深く―― そこには、月明かりが届かぬほどの巨木が連なる谷があった。 その谷を住処とする狼男の一族は、夜の支配者と呼ばれていた。 圧倒的な嗅覚と脚力、鋭い爪、強靭な躯。 月の光に影を伸ばすたび、遠吠えが木々を震わせ、森に棲むあらゆるものが身を縮める。 その群れの中で、一狼はひっそりと肩を落としていた。 焚き火の赤い光が揺れ、仲間たちが話し込み、笑い、武勇を誇り合う声が響く。 男たちは狩りの成果を競い、女たちは仔狼の成長を嬉しそうに語り合っていた。 だが、一狼はその輪に入らなかった。 輪に入れなかった、と言うほうが正確かもしれない。「……あいつ、また端っこにいるぜ」「人間の村に行ってたんじゃねえか? ああいう軟弱なのは困るな」「吸血鬼を許すなんて論外だろ。ありえねぇよ」 ひそひそ声は耳に届く。 けれど、一狼は怒りも見せず、ただ苦笑した。「……俺、そんなに変かなぁ」 ぼそりと呟き、焚き火から少し離れて座る。 月の光が彼の黒髪を薄く照らす。 その目は優しく、けれどどこか寂しげだった。 吸血鬼は宿敵。 それが一族の鉄則であり、誇りであり、歴史だった。 けれど一狼は、小さな村で人間たちが暮らす姿を見てきた。 吸血鬼にも人間にも、穏やかな者たちがいるのを知っていた。 それを言えば、群れは鼻で笑う。「甘い」「危ない」「情けない」。 そんな言葉にも、彼は反論しない。 ただ、胸の内に静かな違和感を抱き続けるだけだった。 その夜―― 群れの長が焚き火の中心に立ち、低く唸った。「明晩、吸血鬼の縄張りを狩る。奴らを山から追い出す」 焚き火の勢いが、誇らしげに燃え上がる。 狼たちの咆哮が谷に響き、一狼は眉をひそめた。 ――どうしてそこまで、憎まなきゃいけないんだろう。 理由を考えようとしても、答えは出ない。 ただ群れがそう決めているから。 先祖がそうだったから。 そんな曖昧な憎悪は、一狼にはまったく馴染まなかった。 いつの間にか、ため息が漏れる。「……俺、こういうの、向いてないな」 群れの視線は冷たく、一狼の背に常に“距離”を置いた。 皆とは歩幅が合わない。 同じ方向を向いているはずなのに、どうしても心だけが少し外れてしまう。 そんな夜が、何度も続いた。 やがて、一狼はそっと谷を離れた。 月明かりの下、群れに気づかれないよう静かに歩き出す。 行くあてもない。 けれど、このままここにいれば、心が自分でなくなっていく気がした。「……俺、他のところで暮らしてみたいなぁ。 もっと静かで、のんびりしてて、誰も怒鳴らない場所で」 その声は、夜風に混ざりすぐに消えていった。 森の向こう。 吸血鬼の館など気にも留めず、一狼は歩いた。 新しい居場所を求めて。 そしてこのあと―― “謎の小娘”に背に隠れられ、 “気品ある吸血鬼”に噛まれ、 人生がとんでもない方向へ転がるとは、まだ想像もしていない。 ただ静かに。 ただ平和に暮らしたかっただけなのに。⸻ 満月の光が森の奥まで沈み込み、湿った空気がひっそりと漂っていた。夜目の利く者であっても足元が見えづらいほどの暗さだが、彼――一狼は慣れた足取りで森を抜けていた。「……はぁ、今日も騒がしかったなぁ」 穏やかな声が、静寂にさざ波を立てた。 群れは相変わらず“宿敵である吸血鬼”の話ばかり。争う気などとうにない自分としては、胸の奥が少しずつ重くなっていた。人間の集落に紛れて、もっと静かに暮らせないだろうか。そんな淡い願いを抱きながら、夜道を歩く。 ――その時。「……えっ?」 ぱさり、と乾いた音。草陰から飛び出した影が、一狼の背中に勢いよく埋まった。 ひんやりとした細い腕。土埃の匂い。 そして、震えも怒りも感じられない、ただ事実だけを述べるような一声。「隠れます」「え、ちょ、え? 危ないよ? 大丈夫?」 一狼が振り返る間もなく、影は背にぴたりと貼りついたまま動かない。 その顔は土で汚れ、髪は乱れ、瞳だけが静かにこちらを見ていた。 サーシャ――後にそう名乗る女性だったが、この時点で彼女は名乗る気などまったくなかった。 次の瞬間、森の奥から風を裂くような声が響く。「小娘ぇぇぇっ! 吾輩の城に無遠慮に触れるとは、あれほど言ったであろうがッ!」 低くも響き渡るその怒号とともに、夜空から巨大な影が滑空した。 鋭い爪、強靭な羽ばたき、そして過剰な気品をまとった大鷲。 一狼が「あれって……吸血鬼?」と疑問を口にする暇もなく、影は彼の目の前で地面へ降り立ち、黒い霧の中で人型へと変わった。 長身、蒼白の肌、金の瞳。どこか古びた服を纏いながらも妙に堂々としている男。「そこの庶民よ、吾輩の獲物を知らぬ顔でかばうとは、なかなか大胆ではないか」「いや、かばってるわけじゃ……あの、ちょっと落ち着こう?」 一狼が両手をかざし、穏やかに宥めようとした、そのとき。 がぶっ。「――っいたぁ!?」「……あ、しまった」「吾輩はしまっておらん! 貴様が動くからだ!」 吸血鬼ナルシスの歯は、見事に一狼の肩へ突き刺さっていた。 こうして、“狼男でありながら吸血鬼にもなってしまった男”“森の城に一人で暮らす自信過剰の純血吸血鬼”“墓から這い出てきた謎の女性” 三人の奇妙で賑やかな、しかしどこかドラマチックな日々が始まりを告げたのだった。 [0回]PR